ともだち

風邪になると、いつも母の手を思い出す。ヴィックスヴェポラップのツンとした匂い。母の手が私の頬に置かれた。冷たくて、気持ちよかった。

大人になっても、あのときの母みたいに優しくしてくれる人がいた。わたしが熱くてバテてた時、タオルハンカチを水道水で濡らして額にあててくれた友達。ガタガタになった横髪を、「可哀想に」と丁寧に整えてくれた美容師さん。お腹が冷えて痛い時、ずっと手のひらをお腹に置いていてくれた男の子、全部大切。無償の愛、なんてほとんど望んではいけないようなものを私は 未だに求めて生きているんだな。それと同時に、私も人に無償の愛を与えたい。愛が地球を救わなくても、私が好きな人を救えれば何だっていいや。

「期間じゃなくて、きっと相性なんだね」と言ってくれた素敵な友人。意外だった。私は、時間や回数が関係を作ると思ってたけど、こういう場合もあるんだね。でも、身に覚えもあった。

東京タワーに遊びに行った帰り道、大きなカエルがいて、それを2人でしゃがんで観察した。友人も私も学生時代に生物部だった共通点があった。拳より大きいくらいのサイズのカエルを見て、お互い笑顔になったと思う。こういう1個1個の小さい幸せが、私の心に繊細に層になって積み重なった。

出会った日、私が辛くて泣いていた日、わざわざ逢いに来てくれて、1日寄り添ってくれたのを忘れない。2人で最悪な田舎町を歩いたのも、ファミレスでご飯を食べたのも、そのあと「今のあなたに読んで欲しい」と本をプレゼントしてくれたこと。沢山わたしと歩いてくれてありがとう。不幸せだった足跡が、幸せな足跡になった。嫌いな街も、好きな街になる。最悪な出来事だったのに、貴方と出逢えたからそれでもう良い話になってしまった。貴方と一緒にいる時、私は自分のことをすごく好きになれる。私が私であることと、そしてそのままで良いことを再確認させられる。私は、出会ってからも今も、ずっと何も変わらなかったんだ。私のまま、大きく伸び伸びさせてくれてありがとう。

変わった、と思うのは友人だった。はじめは自信なさげな印象があったが、会う度どんどん強くなるような、大きくなるような、自信がついているような感覚があった。私の中にどんどん貴方の居場所が出来て、それに安心したからなのか。もちろんわたしと会っているとき以外で何かしら消耗したり、満たされたりしているのかもしれなかった。でも、私のおかげで何かに気づけたならそれで良いし、そう思いたい。私は、貴方の自信の一部でいたいから。

私の知らない街で、私のことを思い出してよ。私が居ないところで私の話をときたましてね。ともだちって言葉を貴方には簡単に使いたくないよ。もうすぐ朝になるけど、必ず私の事ずっと好きでいてね。そして、次の朝も必ず私のことを思い出してね。私の重い「ともだち」をずっと美しいものにしてくれてありがとう。私の美しすぎて眩しい友達。一個でも欠けてたら全部違ったと思うから、偶然とわたしの人生がまた好きになった。