東京は愛せど、

ずっと言いたいことがたくさんあって、でも口に出さない人生。手書きのメニュー、暖かい定食屋さんみたいな、そういう感じになりたいから、やっぱり何も言えなくてよかった。
iQOSの匂いを街で嗅ぐとき、胸がキュッとする。ファミリーレストランに入って、名前を書いて待つ時、私じゃない人の苗字を書いてみたりした。抵抗。席に案内されて、溜息。でも良いよ、何かが壊れるくらいなら。私が一人沈黙で居られたら、これがわたしの嗜み。わたしの美学です。ジェラートを食べてしまった後、ナプキンで口のはしを抑え、口紅を塗り直した。何も言わない代わりに、可愛くしていたかったよ。

装い。銀座で警官ごっこは出来なかったけど、歌舞伎町でケイドロをした。大胆すぎるよ。このままずっと、何にもならない時間が続いたらいいのにな。朝のことが好きだけど、朝が来なくていいって初めて思った。四谷に出勤する24歳児な私。勤務時間を、放課後の夜遊びの時間が追い越した時。私だけが好きだと思っていた好きな曲の好きな歌詞、みんなも好きだったことがわかった。髪の毛を数えたいくらい好きになったら嫌だった。噛まれた唇がピリピリと痛かった。久しぶりに生きてると自覚した。このまま食べられて、私が貴方の細胞になって、貴方の一部としてやっていけたら良かったな。キリストの肉、不味くて捨てた新商品のジュース。私のお酒は奪って飲むくせに、自分のお酒は残す人。どうして私のこと気づいたんだろう。悪いお薬みたいな声。恋のうたをうたわないで。1番濃い匂い、汚くて綺麗なの、私だけ、こんなに好きな事誰にも絶対に知られたくない。酔っ払って、横断歩道の白線だけ踏んで歩いたり、深夜の公園で砂のお城を作ったり、私、そして童心。同い年だったら良かったのに。6歳くらいになって、園長先生の目を盗んでキスしよう。普段より遠くの街で、アイスをくわえながら2人で葛飾ラプソディーを大声で歌った夏の暮。
まだ唇がピリピリ痛いよ。お店を出たあとの朝の街が綺麗だった、汚い街なのに。こんなときも朝は綺麗で絶望した。髪の毛は勝手に伸びて、そして爪も勝手に伸びて、勝手に死んでいく。代謝は好き?産まれたくなかったし、出会いたくなかった、でも同じくらい産まれてよかったって思えた、そんなふうに私の中の破壊性と創造性はどちらも等しく重たくなって、計りが均等に壊れそうだった。わたし、必ずこれを均して、2月の運動場のようにして見せるわ。波ひとつない海みたいにして、そこに鯨を泳がすことにするわ。とりあえず、明日の同じ時間、またここで会いましょうね。私はこうやって、脳を騙して、慣らしていくよ。今は掛け湯の時間、私の背中を黙って流して、また強く抱き締めて。