おとな

抽象的。強いお酒。火花がでる煙草。ココナッツの炭の香り。適当に歩いてたら見つけた15時からの銭湯。ふわふわの犬。嫌いな街。一方通行を逆走。それで足りるのって量のごはん。気象予報士のお父さん。中学時代の部活動。将来の夢。能動的なお仕事。なんでそんなに、全能感。お洒落な音楽。それをお洒落に歌える人。その気もないのに雑に私の胸を揉まないで、でもそんな雑なのもまた良いみたいな夜。起きたら全部夢だったから。ここまで全部無い話。

おとなすぎるよ、と言いたい瞬間がたくさん。私がこの世で一番良いお昼寝を提供してあげられる神様だったら良かった。私が産みたかった。

私の夢は真逆です。私はとびきり晴れた日に、世界が終わるのをすごい高いところから見ていたいです。ずっと前から、小学生の時に初めてエヴァンゲリオン綾波レイを見た時に、きっとそう思ったと思います。だんだん青空にお月様の表面が濃くなっていく、そして熱くなって光り輝いて、私たち生き物が全部ひとつになって死んでゆく。

昔からの癖で、何かをはじめるときに、終わりのことを考えてしまう。人と知り合って、その人のことを好きになればなるほど、いつかくる終わりについて考えています。綺麗でみっともなくて如何しようも無い終わりが、でも案外さっぱりしているお別れが本当は好きなんだって。積み上げてきたものを手放しだり、大切にしてるものに一区切り着いたり、壊れたりするのが愛しいんだって。そこで終わったら作品になるから。でも貴方ってば全く完結させてくれないよね。ずっと終わらないシリーズ物。小説家、駄文。父親とお別れするときの飛行場、あの日もわんわん泣いたのに空は雲ひとつない晴天だった。私にとって晴れの日は呪い。今日は雨でしょ、髪が広がるから嫌い。

大人すぎるよ。私が元気が無くなるから、悪いこと言わないとか、私に心配かけたくないから黙ってるとか、みんな、大人すぎる。私の前では赤ちゃんでいて欲しいのに。大人すぎるよ。いつこれをやめないといけないの。死ぬまで筆を折ってくれないの。あまりに悲観的すぎる、という表現は的外れよ、私にとって救いでもなんでもない。人のためにしか頑張れないの、綺麗な靴も、かわいい服も、何もかも、成立しない世界です。鉄球は私がバットで打ってあげるから、小さい街は私が連れ出してあげるから、私という海で水浴びして、それで具合を悪くすればいいわ。人の秘密。

 

水面

「東京は愛せど、何もない」って
埼玉住んでるあの子が言った

楽しそうに歌うからつられて笑って、
4月1日の高円寺。月。

毎日ピカピカの爪を見てよ。
貴方の神様になりたい。
隣で毎秒祈られたい。
気持ち全部知りたくない。
ずっと一緒にいようね、なんて言えない関係、
どうせ終わりが来るなら何も始めたくない。
浦和に一度も行ったことない。
大宮、もっと行ったことない。
適当に切ったピザの形・歪、私と誰かの何かみたい、そういう比喩ももう面倒くさい。
はだしで運動場が走れない。
不可能を可能にする術、たくさんは持ってない。
隣にいると良い匂いがする、そういうのも本当に要らない、あとできっと寂しくなるの私だけ。
使ってたシャンプー、覚えられない。
終末が来ても、ちゃんと涙を流せない。
最寄りのパン屋さん、もう二度と行けない。
終電でちゃんと帰れない。
大人なのに我慢できない、
のくせに子どもみたいに欲張れない。
こんな性格じゃ幸せになれない。
歩く必要ないとこ歩きたい。
本に線を引きたい。
幸せになりたい。けど不幸せも手放せない。
全部戻したい。真っ直ぐ滑りたい。
忙しくないふり
叶うまで願えば、夢は必ず叶うって言える。
もう会えないときわざわざ言わないで
執着が髪に絡まって、
昔習っていたタップダンスをうろ覚えで踊ってみた。

街が綺麗すぎて 涙が出てきた、
歌詞が良すぎて何も書けなくなった、
明日どこで何してるんだろう
有休とって海に行こうよ
具合が悪くなりたい 光が当たっても隠れない人生でいたい。

今日が終わっても


今日が終わっても 私たちは終わらないでいようね
それは春が来るときの約束 4月1日は雨模様
新しいことしてみたくなっても
昔の街を思い出すでしょう
私という呪いが、貴方の季節を許しませんように

ラブホテルのシャンプーの匂い
明日にはきっと違う香りだから
今日のことは好きでいよう
返事が無くなっても 犬は愛せないな

海に行った話をしないで
私にくれないもの 人にあげた話
1日でいいから貴方の特別に職業体験してみたい
貝殻で足を切っても 歩ける女でいたかった
約束守れないなら殺すしかない
好きすぎるからお別れするしかないとか
愚かすぎて聞けない ヤンキーだから
夕日の方向へ歩かないでいてね 隅田川

私の弁護士とあなたの国の人が喧嘩していた
死因がわからないお姉さん 秘密を知った男
見つけても言わないで 穴場のカフェ
明日が来ても 死なないで 約束
朝の匂いを覚えていて 夜の音を思い出して

今晩も明日の夜も起こさないでください
私を揶揄するお姫様のあだ名
お化粧がすぐ済む 2時半にタクシー拾えるシンデレラ

東京は愛せど、

ずっと言いたいことがたくさんあって、でも口に出さない人生。手書きのメニュー、暖かい定食屋さんみたいな、そういう感じになりたいから、やっぱり何も言えなくてよかった。
iQOSの匂いを街で嗅ぐとき、胸がキュッとする。ファミリーレストランに入って、名前を書いて待つ時、私じゃない人の苗字を書いてみたりした。抵抗。席に案内されて、溜息。でも良いよ、何かが壊れるくらいなら。私が一人沈黙で居られたら、これがわたしの嗜み。わたしの美学です。ジェラートを食べてしまった後、ナプキンで口のはしを抑え、口紅を塗り直した。何も言わない代わりに、可愛くしていたかったよ。

装い。銀座で警官ごっこは出来なかったけど、歌舞伎町でケイドロをした。大胆すぎるよ。このままずっと、何にもならない時間が続いたらいいのにな。朝のことが好きだけど、朝が来なくていいって初めて思った。四谷に出勤する24歳児な私。勤務時間を、放課後の夜遊びの時間が追い越した時。私だけが好きだと思っていた好きな曲の好きな歌詞、みんなも好きだったことがわかった。髪の毛を数えたいくらい好きになったら嫌だった。噛まれた唇がピリピリと痛かった。久しぶりに生きてると自覚した。このまま食べられて、私が貴方の細胞になって、貴方の一部としてやっていけたら良かったな。キリストの肉、不味くて捨てた新商品のジュース。私のお酒は奪って飲むくせに、自分のお酒は残す人。どうして私のこと気づいたんだろう。悪いお薬みたいな声。恋のうたをうたわないで。1番濃い匂い、汚くて綺麗なの、私だけ、こんなに好きな事誰にも絶対に知られたくない。酔っ払って、横断歩道の白線だけ踏んで歩いたり、深夜の公園で砂のお城を作ったり、私、そして童心。同い年だったら良かったのに。6歳くらいになって、園長先生の目を盗んでキスしよう。普段より遠くの街で、アイスをくわえながら2人で葛飾ラプソディーを大声で歌った夏の暮。
まだ唇がピリピリ痛いよ。お店を出たあとの朝の街が綺麗だった、汚い街なのに。こんなときも朝は綺麗で絶望した。髪の毛は勝手に伸びて、そして爪も勝手に伸びて、勝手に死んでいく。代謝は好き?産まれたくなかったし、出会いたくなかった、でも同じくらい産まれてよかったって思えた、そんなふうに私の中の破壊性と創造性はどちらも等しく重たくなって、計りが均等に壊れそうだった。わたし、必ずこれを均して、2月の運動場のようにして見せるわ。波ひとつない海みたいにして、そこに鯨を泳がすことにするわ。とりあえず、明日の同じ時間、またここで会いましょうね。私はこうやって、脳を騙して、慣らしていくよ。今は掛け湯の時間、私の背中を黙って流して、また強く抱き締めて。

花束

去年仲良かった友達と、今年も同じ日を過ごせるかなんてわからない。それは、まだ出会ってない誰かと、一生の付き合いになる可能性があるのと一緒だった。朝だけど乾杯しよう、今年も私と貴方が無事生きてたことに。

私がいくら望んだって貴方になれないのは、救いでしょうか、呪いでしょうか。1番後ろの窓側の席から、斜め前の貴方の後ろ姿を何回もノートに描いたこと。本当に幸せだったら、きっと文章なんて書かないで暮らせるはずだよね。4年も何かを綴ってること、声を出さずに笑ってくれたらいいな。

そろそろ貴方に出会う前の人生を、貴方に出会ってからの人生が追い越すはずだ。ずっと好きだしずっと嫌いだった、私の悪い所を映し出す鏡、私のいい所を後で思い出させてくれるおまじない。そんなかけがえのない人に、また私は出会えるかな、私は誰かをこのくらいかけがえのない人にできるのかな。教室の匂いももうわからない。貴方が住む町のお城が好きになった。春が来たらお別れを思い出してしまうから、春が未だに好きになれないです。定規で真っ直ぐ引いたみたいな、白い紙に墨汁がのるような、あなたの筋の通り方が美しかった。作りたての鏡みたいだった、きっとありのままを容赦なく映したんだな。貴方に反射する自分を直視できないままで生きていたくなかった、痛くても良かったと思えた。
紙で指を切ったって、それを誰かに言わない人、私が泣いていたら、泣いても何もなりません、と言ってくれた人。

いつもあなたの方が、先に陽が登るのを感じている時、本当に地球って丸いんだと感心した。地学の授業、絶対に席が変わらなかった。
きっと、春を芯から好きになれたときって、この気持ちが無くなった時だ。何年経っても春は苦しいよ。
いつでも会いたいよ、暖かい春の空気、小さい方の体育館で在校生にしたお話、バスの中で痛かったこと、全部、まだ飲みこめない。カナダに咲いていた桜の方が綺麗だった、私のお葬式、貴方が産まれた日。

総武線 回想

久しぶりに降った雨があまりに気持ちよくて「祝福」かと思った。空を見上げて、ただそこには何も無かったけど、これがずっとあなたの所まで続いてると思うと悪くない。

最近の暮らしは、まるで棚卸し。
悲しいくらい、合うものと合わないものが分かった。春が来るってそういうことだ。良くも悪くもなくて、私はただ毎日、神様に祈るだけ。欲しいものを出来るだけ与えてください、とか、チャンスを下さい、とかそういう事はあんまり思わなくて、ただ全部見ててくれたらもうどうでもいい。

中野駅三鷹行きの各駅停車、黄色い電車をホームで待った。正面は、青空にビルが添えられた絵みたいだった。奥に見えた大きい雲が2つ、船だったら良かったのに。窓が付いていて、そこから私を見つけて。道路に目を落とすと、横着そうなスポーツカーと目が合った。ツリ目が私のお化粧みたいで、お互い大変だねと呟いてみた。私の悪いところ100個言ってみて。高円寺で降りたカップルに、一昨日の自分を重ねた。

東京のことがどんどん好きになって、自分のことはそうでもなくなった。車窓から見えた線路沿いの団地、ベランダで若い男性が洗濯物を干していた。私が望んでいた私の人生は。縮小して、また大きくなって、そしてまた縮小した。画像がガビガビになっても、肉体はまたもとのサイズに戻ることが出来る。私が今見るべきものはPhotoshopのAI活用術動画ではなく、新宿御苑の温室なのかもしれないね。

叶うなら、会いたいよ。荻窪駅で降りたご婦人は、服が滅茶苦茶だった。誰が強くなったの。私、あなた、あの子、それとも私が知らない誰かのこと。もう幸せだから沢山いらないよ。放置していたことも、向き合ってきたことも、全部わたしの今のためにあった。私が嫌いな私のことも好きでいてくれるの。何かを差し出さなくても明るくいてくれる。何も無かったし、何でもあったんだよ。いつも世界は丸くて、私たちを離さない。宇宙に帰りたいって何回思った。宇宙に帰りたいって情けなく泣いたのは何回目。

天気がいい度に、また荒川を歩きたいって思った。指輪が光って、私の目に刺さった。これが正しい痛みなら、今のお腹の痛みはどっちなんだろう。分からないから愛おしいと言えたならいいのにな。吉祥寺で降りた私は、爪に星を宿した。

もう春の気配。
嫌で嫌で、銀色の薬をまた飲んだ。

超、好きだった

誰にも肯定されてないみたいな、そんな日に限って晴天だったりする。私の心の曇も、関係ないですよって天気に安心した。1週間背中に矢が刺さったまま生きてるような、そんな心地の時もあった。
誰かの悪意で指を切ったのよ。意外と傷は深くて、痛みはそこまでないけどとにかく血が止まらなかった。でも、死ぬほどではない。白い肌に赤が線を作り、美しさまであった。あーあ、好きだった人。もう一度空を見るけど相変わらず雲ひとつない青空、仕方ないから私も平気なフリしてバスに乗ってあげる。車窓から交差点が見えた。老人が転んだ。私は助けられなくて、見てるだけ。今は、何ももう言わないで。

大好きだった香水も、大好きだったアイシャドウも、毎日聴いてたあの曲も、ちょっと今は要らないかも。私にとって憧れだった何もかもは、もっと脆くて儚かった。完璧な人なんて居ないように、悪意がない人も居ないのかも。好きだった人が、好きじゃなくなる瞬間が苦手。
私は心の中で、人のお葬式をした。もう私の中で死んでしまった人。弔い。雨が降っている街、ちょっと雲が薄くなったところから水色が見えていた。もう何回目。数珠を持つ手が震えていた。しかし、心はどんどん落ち着いて言った。こういう時にいつも私が唱える4文字の呪いの言葉、誰にも教えないまま死んでゆくように。

もう、目が合わなかった。死んでいるから当たり前だった。この人が私の人生からいなくなったとて、私の人生はまた続くことに変わりはない。貴方の口から、霞のように薄い言葉が漏れ、私に何かを唱えたとて、生者に響くそれでは無いのだな。諦め、赦し。こうやって私は、血が止まらない指先の傷を赦すことが出来る。

諦めは、癒し。救ってくれたことも沢山あった。もう二度と会うことはない人へ、私はいつまでも幸せです。私の大地に、貴方の遺体が栄養となり蓄えられます。そうして肥えて、私は新しい誰かを探しに行くのでした。