愛憎

可愛さ余って憎さ100倍と言うのはよく言ったものだ。お行儀の悪さも、癖も、何もかも可愛らしかった。どこにも行かないでよ、悪いことをしないで欲しい。私のそばにいて欲しい。でも無理だから、お別れを言わずに1人で家を出た、朝。

貴方と彼の何が違ったのか。1つずつ数えた。どちらも私を特別扱いしてくれたのだけはわかっていた。いつも特別が好きだった。「貴方だけだよ」「お前だけ」、私が擽ったくなる特別な言葉。特別の大きさが違ったのかな。どちらも嬉しかったが、私から熱を奪った方と、私をじわじわ温めた方に別れた。何故2人ともそんなに似ているの。そしてどうしてそんなに違うの。

福岡に来て、全ての正解を叩きつけられたような気がした。温まれば温まるほど、思い出して冷たくなった。本当は、一緒に家を出たかった。冬の朝が好き。何でも無い駅で、何でもない話がしたかった。冷たさに気づく。私が享受していたのは、刹那的な相手の欲求が形を変えたものでしか無く、特別というのも雑に扱われたが故の特別でしか無かったのだと。悪い人。でも、私も等しく悪かった。好きな音楽とか、好きな食べ物とか、何も知らなかった。本当は貴方のホクロの位置よりも、好きな漫画が知りたかった。無理に靴下を脱がせた。

会いたくて仕方がない人に会えて、これ以上無いくらいの幸せを貰ったから。約束をしないことの優しさ、触れられないことの暖かさ。昔から周りにしてもらったことってこれだった。なんで忘れていたのだろう。

暗い部屋の中、メガネがなかったので顔が全く見えなかった。私は貴方の顔が好きだったのに。「誰でもいいんじゃん」と言ってきた貴方は誰だったのですか。