鋭さと冷たさ

多分血が出ていた。爪と指の間に赤が溜まって、やがて指を伝った。いつもこんな風にしてるんですね。雪が溶けない街の中、この出来事を小さく手の中に閉じ込めて、ポケットに押し込んだ。イヤホンから流れていた曲は、もう今じゃ聴けない曲。

1年以上前のことを未だに考えたりして、憂鬱な気持ちになる。最後に頭を撫でてくれたのっていつだっけ。宝物だったのがそうじゃなくなる瞬間、とても苦手。私が大事にできなかったんだって思った。本当はもう喋れる仲じゃないのに、ちゃんと嫌な顔しながらわたしの悪口をわたしに言う少年誌的存在、なみだ。空っぽになったのは私じゃなくて貴方だったってこと、遠く離れてから気がついた。私は、昨年より毛の長い猫になったから、色んな人が来ては私を撫でて、また出掛けていきますよ。わたしに何かを決める権利は最初から最後までずっと無いけど、ただ忠実に、良い子風でまた遊びに来てくれるのを待っています。本当は少年誌なのにな。

チクッとしたけどもう遅かったから

みさきくんの八重歯

独り占めしたかったのに、出来なくて悲しかった。そんな日があった。マニキュアが乾かなくて、夜更かしをしてしまう日々。私の爪なんて別に誰も見てなくていいのにな、誰も私の事気づきませんように。
会いたい人に会えないフラストレーション。貴方は私じゃなくて、私も貴方じゃないから、こういう気持ちになるんだな。カレンダーに予定を入れたり消したりして、気づけばもう週末になりそうです。
人生って沢山週末があるはずなのに、貴方の週末に、私はきっと居られないの。いつも、どこで何してるの。家にいるの。でも絶対知りたくない、知らなくていいことがたくさんあるのを教えてくれた人の週末も、きっと良いことがいっぱいあって私は嬉しくて悲しい気持ち。

寂しいとき、嬉しくなる。もう冬もきっと終わって、もっと寂しい春が来る。退任式を最後にもう会っていない同級生とか不意に思い出す気温、あんなに仲良かったのにね。
電車に揺られてる時、暗い帰り道を音楽を聴いて歩く時、持て余してる時、元気にしてるかなって誰かを思い出す時間が好き。いつも頭を撫でてくれる歌、左耳から入った女性ボーカルの細い声が、私の脳の皺に溜まった悪いことを右耳から外に放出してくれた。
本当はまいにち会いたいよ。呪われた街にまた行こうよ。夜になって、同じお布団で泣きながら眠りたい。わたし、いつかは星に還らないといけない、こんなに好きなのに、いつかはみんなお別れしないといけないから、苦しい。人生の醍醐味ってずっとちょっとずつ寂しいことだ。寂しいって気持ちはすごく贅沢なんだ。寂しいときは必死に会いに行ったらいい、でも、寂しいって気持ちを抱えてじぶんの生活を続けるの。

明日台風が来て、全員在宅勤務になったらいい。本当に書きたいことが書けないこんな日記なんて辞めてしまえばいい。私が泣いてても、誰も気づかなかったらいいじゃん。生きてるだけで傷つけちゃった時、その人は死ぬしかなくなるんですか。
ひとの体のパーツをしっかり覚えていた。6年生の教室の床がいちばん新しかった。そして、図鑑の中で見た美しい昆虫に、生涯を捧げるの。でもそれも全部夢で、起きた時に、台風が来てなかったなと思って、またもう一度眠りにつく。マニキュアだけがキラッと綺麗で、それがまた、私みたいで嫌でした。

いっしゅんのきらめき

部屋、ペンギン、オムライス。焼肉を全部戻した日、きっと私は憔悴しきっていたの。
時系列なんて無茶苦茶な日々、私は何をして、何をしなかったんだろうか。そういえば一年前もこんな事があったな。雑音。雑音、雑談、雑音。話し声がうるさくて、私はひとりの世界に閉じこもりたかったの。ずっと一緒にいたら、取り返しがつかないくらい人を嫌いになりそうだった。そうか、私は人のこと本当に嫌いになりそうな時、自分の気持ちがグッと落ちる前に、先に、距離をとっているんですね。いつしか踏み込まれたく無くなった、私の清潔な部屋。招く人を厳選して生きていかないと、きっと私が私でなくなるんだわ。そうして最後は誰もいなくなりましたみたいな

エンディングがあったら、これかな、みたいな曲を聴きながら総武線で四谷より上に、ゆらゆら。電車の中から見える飯田橋付近のボートが乗れる川、緑色で汚いんだけど、日光を反射して、キラキラして綺麗だった。3月以降、秋葉原に行ってももう居ないんだねって悲しくなった。

急に、私のこと知ってほしくなった。
ベローチェのレシートで手を切ったこと。そのレシートに書かれていたホットミルクの文字。お砂糖を入れたこと。あなたのことを考えていたこと。一緒に海にいった日に、遠くに見えた船にはお化けが100体のっていたらしい。そんなことを考えて、結局言わなかったこと。あの部屋のペンギンは、南極に行かずに死んだこと

激情

左手の薬指に光る銀色を見て、針を刺されたような、胸がキュッと締まる感覚になった。
あと何回こんな思いをしたらいい。そういう季節を繰り返して、私たちはいつか棺に入っていく。

自分と人の違いで喜んだし、自分と人の違いでいつも苦しんでいる。周りの人と同じ生命体と思えない。バターと蜂蜜がホットケーキの上で溶けて境界線がわからなくなるような、あれになりたいのに一生なれる気がしない。尊重、という単語の重みを感じる。
大好きな相手が死にたいと言った時に、結局私は殺してあげられないんだろうなって残念な気持ちになった。この中途半端な自我と愛着をどうにかして生きていたい。前回答えをくれた人が今回も答えをくれるかなんてわからない。ここからタクシーに乗れば15分も掛からず着いてしまうんだろうな。私は何も言わないから、私にとって答えと思えるような話をまたしてほしい。

推し という単調な言葉。つまんないけど、最近推しって私のこと無視してほしいひとってわかった。貴方の人生に影響を与えたくないなって気づいた。わたしが、貴方の何かしらの結び目を解きませんように。また、貴方の何かしらの結び目をつけてしまいませんように。

逆に、それ以外の大事の人の人生は、私としっかり交わっていて欲しいなと思う。私の影響で何かを始めて欲しいし、私の影響で何かを終わらせて欲しい。でもそんなエゴも、採択するもしないも本人次第だから。私も誰に影響を与えたいか、与えたくないかはきっとたくさん選別している。推しなんてつまんない言葉、ほとんど使わないでしょう。

明日が来ても明後日が来ても、きっと私たち絶対に会えないね。ポケモンGOで卵がもう5個もかえったよ。新しい香水を買ったよ。前髪を少し切りすぎたよ、私の近況報告も、なにもいみない。なにも全部意味ないのにね。
近況報告なんて、もうずっと誰にしたらいいか分からないんでしょう。ハガキを出すような友人も、何もかも。眼鏡を早く買い替えたいよ。
余計なことを沢山する、お釣りがくるようなやつなんて要らない。知らない女性を抱きしめてあげた新橋の夜、1年前。あの日の方がきっと私人に優しかったはずだよね。関西弁がずっと嫌です。

あみもの

誰のものにもなりたくない。毛布にワンプッシュしたアクオリナのピンクシュガーがちょっと強めに香った。笑えるくらいに、何も要らない気がしてきた。夜が深くならないと眠れない。退屈な日、生姜の入った紅茶をじぶんで淹れて、なんとなく本を読んだりした。誰の母親にもなりたくない。だれかとじぶんを完全に切り離して、テレパシーでだけ会話してあげる。

ちょっと日焼けした肌が新鮮だった。
夏がもう終わりつつあるんだなと感じた日だった。冬の支度をしないとね。今年の冬は何をしようか。ホットワインを沢山作って毎日飲みたい。りんごのシャンパンとアボカドを食卓に並べたい。夜に散歩。お気に入りの香りのキャンドルを買い占めて、寝る前につけて癒されたい。
夏にはお別れするの。わたくし、貴方には本当に呆れたんだから。毎年具合を悪くしている季節。お祭りも、花火も、川も、何もかもなくていい。冬の寒い日の張り詰めたような朝が好き。宇宙人は暑さに弱いの。それにまたどうせ来るんでしょう。嫌なの。

ともだち

風邪になると、いつも母の手を思い出す。ヴィックスヴェポラップのツンとした匂い。母の手が私の頬に置かれた。冷たくて、気持ちよかった。

大人になっても、あのときの母みたいに優しくしてくれる人がいた。わたしが熱くてバテてた時、タオルハンカチを水道水で濡らして額にあててくれた友達。ガタガタになった横髪を、「可哀想に」と丁寧に整えてくれた美容師さん。お腹が冷えて痛い時、ずっと手のひらをお腹に置いていてくれた男の子、全部大切。無償の愛、なんてほとんど望んではいけないようなものを私は 未だに求めて生きているんだな。それと同時に、私も人に無償の愛を与えたい。愛が地球を救わなくても、私が好きな人を救えれば何だっていいや。

「期間じゃなくて、きっと相性なんだね」と言ってくれた素敵な友人。意外だった。私は、時間や回数が関係を作ると思ってたけど、こういう場合もあるんだね。でも、身に覚えもあった。

東京タワーに遊びに行った帰り道、大きなカエルがいて、それを2人でしゃがんで観察した。友人も私も学生時代に生物部だった共通点があった。拳より大きいくらいのサイズのカエルを見て、お互い笑顔になったと思う。こういう1個1個の小さい幸せが、私の心に繊細に層になって積み重なった。

出会った日、私が辛くて泣いていた日、わざわざ逢いに来てくれて、1日寄り添ってくれたのを忘れない。2人で最悪な田舎町を歩いたのも、ファミレスでご飯を食べたのも、そのあと「今のあなたに読んで欲しい」と本をプレゼントしてくれたこと。沢山わたしと歩いてくれてありがとう。不幸せだった足跡が、幸せな足跡になった。嫌いな街も、好きな街になる。最悪な出来事だったのに、貴方と出逢えたからそれでもう良い話になってしまった。貴方と一緒にいる時、私は自分のことをすごく好きになれる。私が私であることと、そしてそのままで良いことを再確認させられる。私は、出会ってからも今も、ずっと何も変わらなかったんだ。私のまま、大きく伸び伸びさせてくれてありがとう。

変わった、と思うのは友人だった。はじめは自信なさげな印象があったが、会う度どんどん強くなるような、大きくなるような、自信がついているような感覚があった。私の中にどんどん貴方の居場所が出来て、それに安心したからなのか。もちろんわたしと会っているとき以外で何かしら消耗したり、満たされたりしているのかもしれなかった。でも、私のおかげで何かに気づけたならそれで良いし、そう思いたい。私は、貴方の自信の一部でいたいから。

私の知らない街で、私のことを思い出してよ。私が居ないところで私の話をときたましてね。ともだちって言葉を貴方には簡単に使いたくないよ。もうすぐ朝になるけど、必ず私の事ずっと好きでいてね。そして、次の朝も必ず私のことを思い出してね。私の重い「ともだち」をずっと美しいものにしてくれてありがとう。私の美しすぎて眩しい友達。一個でも欠けてたら全部違ったと思うから、偶然とわたしの人生がまた好きになった。

雨が降らない日

「遅れてごめんね」と言うと、目の前の彼はコーヒーを一口飲んで、微笑んだ。笑った時に目尻にできた小さなシワが好きだった。
別れ話をしに来たのに、思ったより今日のAくんがかっこよくて、少し勿体なくなった。あっちはまだ振られるってわかってないから、未来は私が完全に握っていた。AくんはじぶんのiPhoneの画面を一瞬見て、テーブルにその面を下にして置いた。私と遊ぶ時はいつもそう。その優しさが今日は痛かった。

お互いに近況報告をした。そしてそのあと少し間が出来た。Aくんは暇になってしまったのかテーブルに刺してあったボールペンで、紙ナプキンに絵を描き始めた。どうやら、最近流行りのキャラクターらしかった。描いてる途中でそれが分かるくらい、Aくんは絵がうまかった。

注文したアイスティーが届き、ストローをさしてひとくちのんだ。なかなか次を話し出すことができない私をなんとも思ってないのか、Aくんは鼻歌を歌うように話し始めた。

「筒の部分が透明なペンってさ、インクが切れるのが外から見えるじゃん。あ、もうすぐインク無くなっちゃうんだな、とか、まだ沢山残ってるな、とか。」
「俺はさ、それが嫌なんだよね。俺は、油性マジックみたいにまだ使えるのか終わるのかわかんないようなのがいいんだ。それに油性マジックはペンに比べて使う頻度が低いから、なかなか減らないんだよな。」
そこまで話して、Aくんはコーヒーを啜った。私が黙ったままだったからか、笑って
「でもボールペンと違って、蓋をしめなかったら乾いてダメになっちゃうんだよな。」
と続けた。もうダメだ。私はこの人と付き合ってられないんだ。

「別れたい」、思ったより大きな声が出て自分でも驚いた。Aくんの顔を見ながら、道中で見かけた蝉の死骸を思い出した。もう、夏も終わるんだね。グラスの結露が、コップの表面を伝っておちていく。したにくだるごとに、小さな粒をどんどん吸収して、大きくなって落ちていく。今どんな気持ち。Aくんは、私の目を見て、自分の空になったグラスに視線をうつして、またわたしをみた。

「明日も、明後日も、その次の日も、来月も、ずっと一緒に居られると思ってたよ」、Aくんの声は少し震えていた。いたたまれなくて一瞬逸らしてしまった目をAくんの方に向けた。私は顔を強ばらせたまま、何も言えずに目だけ合わせていた。Aくんは、少し笑っていた。

わかっていた。きっともし泣いたとしても笑って私の選択を許してくれると。あと、多分本当はこうなることも少しはわかっていたんだろうな、と。恋愛は、乖離があった。憧れだった。きっとまたAくんは新しく、ずっと良い人と恋愛をして私の事なんて忘れちゃうんだろうなとも思った。大きな青い空の下、蝉がまた1匹死んだ。わたしは。