みさきくんの八重歯

独り占めしたかったのに、出来なくて悲しかった。そんな日があった。マニキュアが乾かなくて、夜更かしをしてしまう日々。私の爪なんて別に誰も見てなくていいのにな、誰も私の事気づきませんように。
会いたい人に会えないフラストレーション。貴方は私じゃなくて、私も貴方じゃないから、こういう気持ちになるんだな。カレンダーに予定を入れたり消したりして、気づけばもう週末になりそうです。
人生って沢山週末があるはずなのに、貴方の週末に、私はきっと居られないの。いつも、どこで何してるの。家にいるの。でも絶対知りたくない、知らなくていいことがたくさんあるのを教えてくれた人の週末も、きっと良いことがいっぱいあって私は嬉しくて悲しい気持ち。

寂しいとき、嬉しくなる。もう冬もきっと終わって、もっと寂しい春が来る。退任式を最後にもう会っていない同級生とか不意に思い出す気温、あんなに仲良かったのにね。
電車に揺られてる時、暗い帰り道を音楽を聴いて歩く時、持て余してる時、元気にしてるかなって誰かを思い出す時間が好き。いつも頭を撫でてくれる歌、左耳から入った女性ボーカルの細い声が、私の脳の皺に溜まった悪いことを右耳から外に放出してくれた。
本当はまいにち会いたいよ。呪われた街にまた行こうよ。夜になって、同じお布団で泣きながら眠りたい。わたし、いつかは星に還らないといけない、こんなに好きなのに、いつかはみんなお別れしないといけないから、苦しい。人生の醍醐味ってずっとちょっとずつ寂しいことだ。寂しいって気持ちはすごく贅沢なんだ。寂しいときは必死に会いに行ったらいい、でも、寂しいって気持ちを抱えてじぶんの生活を続けるの。

明日台風が来て、全員在宅勤務になったらいい。本当に書きたいことが書けないこんな日記なんて辞めてしまえばいい。私が泣いてても、誰も気づかなかったらいいじゃん。生きてるだけで傷つけちゃった時、その人は死ぬしかなくなるんですか。
ひとの体のパーツをしっかり覚えていた。6年生の教室の床がいちばん新しかった。そして、図鑑の中で見た美しい昆虫に、生涯を捧げるの。でもそれも全部夢で、起きた時に、台風が来てなかったなと思って、またもう一度眠りにつく。マニキュアだけがキラッと綺麗で、それがまた、私みたいで嫌でした。