超、好きだった

誰にも肯定されてないみたいな、そんな日に限って晴天だったりする。私の心の曇も、関係ないですよって天気に安心した。1週間背中に矢が刺さったまま生きてるような、そんな心地の時もあった。
誰かの悪意で指を切ったのよ。意外と傷は深くて、痛みはそこまでないけどとにかく血が止まらなかった。でも、死ぬほどではない。白い肌に赤が線を作り、美しさまであった。あーあ、好きだった人。もう一度空を見るけど相変わらず雲ひとつない青空、仕方ないから私も平気なフリしてバスに乗ってあげる。車窓から交差点が見えた。老人が転んだ。私は助けられなくて、見てるだけ。今は、何ももう言わないで。

大好きだった香水も、大好きだったアイシャドウも、毎日聴いてたあの曲も、ちょっと今は要らないかも。私にとって憧れだった何もかもは、もっと脆くて儚かった。完璧な人なんて居ないように、悪意がない人も居ないのかも。好きだった人が、好きじゃなくなる瞬間が苦手。
私は心の中で、人のお葬式をした。もう私の中で死んでしまった人。弔い。雨が降っている街、ちょっと雲が薄くなったところから水色が見えていた。もう何回目。数珠を持つ手が震えていた。しかし、心はどんどん落ち着いて言った。こういう時にいつも私が唱える4文字の呪いの言葉、誰にも教えないまま死んでゆくように。

もう、目が合わなかった。死んでいるから当たり前だった。この人が私の人生からいなくなったとて、私の人生はまた続くことに変わりはない。貴方の口から、霞のように薄い言葉が漏れ、私に何かを唱えたとて、生者に響くそれでは無いのだな。諦め、赦し。こうやって私は、血が止まらない指先の傷を赦すことが出来る。

諦めは、癒し。救ってくれたことも沢山あった。もう二度と会うことはない人へ、私はいつまでも幸せです。私の大地に、貴方の遺体が栄養となり蓄えられます。そうして肥えて、私は新しい誰かを探しに行くのでした。