総武線 回想

久しぶりに降った雨があまりに気持ちよくて「祝福」かと思った。空を見上げて、ただそこには何も無かったけど、これがずっとあなたの所まで続いてると思うと悪くない。

最近の暮らしは、まるで棚卸し。
悲しいくらい、合うものと合わないものが分かった。春が来るってそういうことだ。良くも悪くもなくて、私はただ毎日、神様に祈るだけ。欲しいものを出来るだけ与えてください、とか、チャンスを下さい、とかそういう事はあんまり思わなくて、ただ全部見ててくれたらもうどうでもいい。

中野駅三鷹行きの各駅停車、黄色い電車をホームで待った。正面は、青空にビルが添えられた絵みたいだった。奥に見えた大きい雲が2つ、船だったら良かったのに。窓が付いていて、そこから私を見つけて。道路に目を落とすと、横着そうなスポーツカーと目が合った。ツリ目が私のお化粧みたいで、お互い大変だねと呟いてみた。私の悪いところ100個言ってみて。高円寺で降りたカップルに、一昨日の自分を重ねた。

東京のことがどんどん好きになって、自分のことはそうでもなくなった。車窓から見えた線路沿いの団地、ベランダで若い男性が洗濯物を干していた。私が望んでいた私の人生は。縮小して、また大きくなって、そしてまた縮小した。画像がガビガビになっても、肉体はまたもとのサイズに戻ることが出来る。私が今見るべきものはPhotoshopのAI活用術動画ではなく、新宿御苑の温室なのかもしれないね。

叶うなら、会いたいよ。荻窪駅で降りたご婦人は、服が滅茶苦茶だった。誰が強くなったの。私、あなた、あの子、それとも私が知らない誰かのこと。もう幸せだから沢山いらないよ。放置していたことも、向き合ってきたことも、全部わたしの今のためにあった。私が嫌いな私のことも好きでいてくれるの。何かを差し出さなくても明るくいてくれる。何も無かったし、何でもあったんだよ。いつも世界は丸くて、私たちを離さない。宇宙に帰りたいって何回思った。宇宙に帰りたいって情けなく泣いたのは何回目。

天気がいい度に、また荒川を歩きたいって思った。指輪が光って、私の目に刺さった。これが正しい痛みなら、今のお腹の痛みはどっちなんだろう。分からないから愛おしいと言えたならいいのにな。吉祥寺で降りた私は、爪に星を宿した。

もう春の気配。
嫌で嫌で、銀色の薬をまた飲んだ。