二度と私を産むな

新しく買ったアナスイの香水が、私の体温で煩いくらいに薫っていた。汗が太ももを伝い、足首の方まで降りて行った。辛い夏の日が、わたしを殺した。

自分が凡人と悟ったのは何歳の時か。凡人であることに対して諦めが着いたのは何歳だったか。自分の顔も、性格も、何もかもつまらなかった。鏡を初めて割ったのは、14歳の夏だった。
人と比べて良くて、人と比べて悪かった。成績はいつも下から数える方が早かった。何にもなれないのに、何にでもなりたかった、でも何になりたいのかもわからない。矛盾が多い生活が私の首を少しずつ絞めた。皆が幼稚園や小学校で獲得していたような全能感を持てないまま、優等生にもヤンキーにもなれず、毎日苦しかった。
この世で一番欲しいものがあった。ほかのものはどうでも良くて、それだけを指標に生きていた時期がある。生きている人を神様にする行為の危険性をなにもわからずに、狡賢く己を正当化し、ずっとこれが続けばいいと思っていた。本当は馬鹿なのに、難しい言葉を使うような幼稚さ。私を救えるのは、それしか無かったから。

私があなたに新しい名前をつけてあげるよ。その代わりに強い言葉を使わないで。次に産まれてくる時は、貴方の体のパーツがいい。死ぬまで一緒にいようね。