窓際に置いた手

端正な顔立ちが、靴の踵をすり減らす。私たちがどうにでもなれる時間が、間もなく迫っていた。一緒に死ねたらいいのに。一緒に生きられないから。深夜2時、貴方の運転する車のハンドルを、助手席から握って思い切り回した。

手に薔薇の花の棘が刺さった時、駅で知らない男性がぶつかってきた時、海水が目に入った時、嫌いな曲が流れた時。私を痛めつけるもの全てが、貴方だったら良かったのに。ガラスが沢山手に刺さった。わたしに刺さった破片は、その凶暴性には似合わないくらいキラキラしていた。私から生まれたみたい。その手で貴方の顔を撫でたかった。もうずっと離れて暮らしているのに。

私の音を聴いてよ。
電車の中は、私と青年の2人だった。日差しが時たま私たちを眩しくする。30歳の私の誕生日に、一緒に海外旅行に行こうねなんて、有効か否かもうよくわからない約束をずっと覚えている。私の時間を貰ってくれる。貴方の時間を差し出して、きっと私といたら楽しいことが沢山起こるよ。普段は言えることも、言い出せなかった。
高校生の頃のことを、ずっと覚えている。
もう時期冬になるんだというのを実感するような気温の夜、車で迎えに来る母親を学校の前で1人待っていた。自転車の音がして、振り返った。なぜだかわからなかったけど、振り返る前から貴方だってわかった。貴方は私を見て満面の笑みを浮かべ、そのまま挨拶もなしに通り過ぎて行った。あの瞬間を忘れる日がいつかくるなら、私の人生はなんなの。六本木の大きなビルに囲まれながら、自分の町の小さな出来事に思いを馳せた。こんなところにいたって、私は昔から赦されたわけじゃなかった。はやく夏が終わりますように。