くらし

雨なのに傘をささないで歩く新宿。歩けば歩くほど小雨になって、最後には降らなくなった。家に帰って手を洗うと、イソップで買ったハンドソープの香りがフワッと鼻に入る。私が手を洗ったら、つぎはきょうたくんの番。手を拭く前に、少し伸びた髪を鬱陶しそうに払った。今のでちょっと髪が濡れちゃったね。わたしの、大好きな生活。

この人は、私がたまに何も言わないでどこかに泊まって、ボロボロで帰ってきたりするのをどう思っているのだろう。きっと、私はきょうたくんの放し飼いの猫をずっとやるんだなって、東京に来て思った。たまに寂しくなって夜中にきょうたくんのお布団に入る。きょうたくんは寝てるのか起きてるのか分からないけど必ず抱きしめてくれて、私は気が済んだらその手を振り払ってまた自分の布団に戻る。そしてまた暫く携帯を見て、また寂しくなってきょうたくんのお布団に入る。でも私は人と同じお布団で眠れないから、やっぱり途中で鬱陶しくなって、自分のお布団に戻る。
たまに他の家の人に貰った首輪をつけて帰ることもある。他の家の人に呼ばれてる名前もあるの。でも結局私はきょうたくんの家の子だから、病院代も、ご飯代も、わたしの面倒くさいことも全部きょうたくんがしてくれる。人よりちょっと愛嬌があってごめんなさい。誰にも相手にされない人生だったら良かった。私も、私といて楽しいって言ってくれる笑顔の可愛い人が大好きだし。

私たちのくらしって、明るい曲しか似合わないよ。ワイヤレスのイヤホンを片方つけてあげる。有線ほど近くにいないけど、ちゃんとわたしは繋がってるよ。ずっと同じ曲を聴いててね。