悪い顔

高校生の時、どうしようもないくらい好きな男の子がいた。
かっこよくて、野球部で、背が高くて、あんまり人と話さない故に女子からは怖い人と思われていて、でも笑顔がとても可愛い人だった。笑う度に八重歯が見えた。ガチャガチャの歯並びですら愛しかった。

在学中、彼と交換日記をしていた時期がちょっとだけあった。
私が「高校があんまり楽しくないです。」と綴った時、「僕もです。中学生の時に高校は楽しいぞと周囲の大人に言われていたのに、全然楽しくなくて。大学もどうせそうなんだろうなって思っています」と返事が来た。私はそれを聞いてひどく安心した。

大学に入ってからも時たま連絡をとった。
2年生の前期くらいのことだ。電話で「大学楽しい?」と聞いたら、「楽しい」と言われてしまい、安直に絶望してしまった。そういうので生きてる。


切られるのが怖くてかけられない電話がある。
見るとしんどくて見られない映画がある。
立ち止まって動けなくなるから行けない場所がある。


暮らしはどんどん辛くなってきて、私は彼のことを思い出すことも減った。

たまには思い出さないと、私は私じゃなくなってしまう気がするから。



貴方と暮らす人生についてたまに考える。
贅沢なお遊びだと思う。私には、私のことをいちばんに思ってくれる素敵な彼氏がいるのに。


もしきょうたくんと結婚するなら、
籍を入れる前の3ヶ月はみさきくんと暮らしたい。やっぱりうまくいかないんだ、みさきくんとは暮らせないね、残念、という気持ちになってからきょうたくんと暮らし始めたい。
きっと結婚してからも諦めがつかないかもしれないから。

地球最後の日、地球に落ちてくる隕石を見ながら電話するのがみさきくんだったらいいのに。