書けないままでいて

タバコを外で吸ったときの携帯灰皿。冷凍フルーツを食べるときに最後にかける練乳。天然過ぎて何を言っているのか一発じゃわからせてくれない先輩。鶴屋でまとめて買ったVivienne Westwoodのハンカチ。生活を良くしてくれるものはいつだって上等と決まっている。そして同じくらいのチープさ。わたしの心にぽっかり開いた穴にそよ風が通った。遊んでいるみたい、春と同じような憎たらしさがあった。わたしは、冬以外の季節が嫌い。

パソコンの前で今日も栄養ドリンクを飲み干した。飲み終わったと同時くらいにくしゃみが出た。誰かが私について話している。いい話だったらいいのに。AirPodsからは絶え間なく東京事変が流れていた。私はいつになったら椎名林檎になれるのだろう。何者でもあり、何者にもなりきらない。羽をはやして、彼女に会いに行く。

私は、わたしの望むものしか供給出来ない。究極の自己満足、自家発電だけで成り立つ精神ではないのか。周りのわたしの望まないものも、羨ましいものも、なりたいものも、全部飲み込む。ときには鋭利なものも口に入れた。自分の胃袋より大きそうなものも、毒も飲み込んだ。痛かった。全部、私の世界を大きくして、わたしが呼吸できるようにするために必要だったのに。

消化の最中は動かなかった。消化にのみ神経を使い、取り込み、私になる。周りのものを全部取り込んで、私はわたしの望むものに変換する。わたしを通し、わたしの味になったそれを人々は喜ぶのか、味が濃いと捨てるのか、はたまた飲み込んだ途端に息ができなくなってしまうの。

刺激物になりたい。人の人生を狂わせ、わたしは満たされる。そのうち教科書にも載って、こんな歴史は繰り返してはならぬと教訓にされる。しかし、一度わたしの香りを嗅げば、そんなことは無駄なんだと思い知らされる、それでいい、欲の深さは生命力と等しい。誰よりも永く生きて、誰よりも最速で死んでいく。神様になるには、毒をも飲み込む覚悟と、人を諦めることが重要だった。