追いかけて

どこにも行かないで、と抱きしめられた真夏日を思い出していた。
私だって本当は、どこにも行かないでと抱きしめて離したくない人がいたけど、そんなことを言ったら可哀想だと思っちゃったから、言わなかった。それを平気で口にしてしまえたあの人は、去っていく人の気持ちを全く知らないの。

毎日楽しくなくて、それは私が何にも身が入らないから。私の心がどこにあるかというと、他人の心の数箇所。じっと見つめて、そしてたまに見つめなかったりしていた。考えるような頭がないの、夏だから。そんなのは言葉遊びで、本当はちゃんとやりたいこともあった。1年前の今頃は、お昼は博物館で働いて、夕方から選挙カーに乗って毎日叫んでお金を貰っていたのにね。

生きてると、いかに自分が何も持っていないかを思い知らされる。まだ欲しいの、と言われてしまいそうだけど、私は全部欲しい。全部手に入れて、手放して、また手に入れたいと思う。私が貴方から何かを盗んでしまうことを今後も優しく赦してくれませんか。私を許してくれる人ってもう居ないらしいから。顔も、性格も、才能も、何も無い。早く新しい人生を歩みたいと思うかもしれないけど、実はこれは2度目。学生の頃の私はまだ不完全だった。半分は自分で、残り半分は自分を少し上から見ている自分だった。上村和歌子は1度死んだ。

全員羨ましいし妬ましい。私をこんな気持ちにさせないで欲しい。私が持っていないものを何故みんなはあんなに持っているのかわからない。まるで自分が空っぽみたいに思える日があった。私はなりたい自分になるために、また無理をする。絶対全部欲しいよ。