木星に行きたいの

宇宙に私が1人漂っていた。
目の前にある星屑たちを掴もうとしたけど、届くわけは無かった。
寂しい、と口に出して言ってみたけどその言葉はキラキラ光って私の元から離れて行った。ごめんなさい、私がもっと大きかったらよかったのにね。160cmとちょっとの全身は、間もなく太陽の近くを離れる。

例えば私がすごく大きな体で、入る服なんてなくて、少しだらしない体を全く隠しもせずに宇宙を泳ぐのだ。
星屑たちは私が水をかく度に散らばって、時には私の指先にまとわりつき、輝いたりした。
私の裸体を誰もいやらしい目で見ない、私はやっと安心して、宇宙をまた泳ぎ出した。


というのは全部嘘で、私は美容室の椅子に座っていた。「倒しますよ〜」と後ろから声をかけられ、ゆっくり上体が倒れていく。
お湯で髪を洗われる、くすぐったくて少し足を組んだ。

「子どもじゃ無いんだからいい加減こういうことやめれば?」と言われた日のことを思い出す。私はあれから多くを欲しがってしまった。
幼少期、欲しいものを欲しいと言えない子どもだった。すべて無くなって、欲しかったのに、別に欲しくなかったしと簡単に笑って見せた。

美容師に「こんなに面白い子いないのにね」「会うの二回目だけど、離れるのが寂しいです」と言われた。そのあとすぐ耳の中に水が入って、苦い気持ちになった。

私の全てを曝け出しても壊れないでいてくれるかな。私のせいで壊れてしまった人たちは、壊れた心をわたしのグラウンドに埋めていった。
その場所は未だに草木も花も生えない。春が来ない。宇宙空間を1人で漂っていたのは、地球を全部壊してしまったからだった。

♪さよなら〜 それもいいさ
♪さよなら〜 どこかで元気にやれよ

♪僕もどうにかやるさ

隣の星から聴こえてきた音楽は、春に相応しい別れの歌だった。あなたが居れば、私の大地にも草木が生えるだろうか。春みたいな人。

いつかもっと大きくなって、宇宙を壊してその外に行くのよ、私のそんなおふざけにも笑ってくれるような暖かい季節。

春なんてもう二度と来なければいい。