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小学2年生の時、近くに自由に使っていい空き教室があった。私は休み時間にそこに行っては、お教室の床の木目を数えながら歩いた。いつも顔みたいに見える木目があって、わたしはそこの顔を見ては、今日もいるなあ(当たり前だが)などと思っていた。お教室には竹馬が置いてあって、室内なのに竹馬をして遊んでよかった。
昼休みや中休みには同級生たちで賑わった。

大学の床は、ツルツルしていた。
病院みたいな床だ。デザイン科の廊下は、先生たちのお部屋から香ってくるコーヒーの匂いがほのかに漂っている。
美術科の廊下は、絵の具の香りがする。
たまに嗅ぐと落ち着く。基本的に美術科に用事は無いので、あまり行かないのだが。

自分のことをいつから宇宙人だと思っているのだろう。
コーヒーは相変わらず飲めなかった。そして、教授のお部屋にあるカフェラテは、全てコーヒーくらい苦かった。
家の鍵を最後になくしたのは高校生のときだ。普通、家の鍵は無くさないのだよと同級生の馬鹿な男の子に諭され、私はその子よりもずっとダメなんだなという考えに落ち着いた。妹も先日何かしらの鍵を無くしていた。

あと2時間半ほど働いたら、家に帰れる。
なにもかも中途半端だった、手助けがないと物を贈ることも出来ないなんて。
今日私をカウンターで20分ほど待たせてお電話されていたお客様、私はなんて素敵な人だろうと思った。面倒だとは思わなかった。ただ可愛らしくて、羨ましいなあとおもってメモ帳の隅にペンを走らせた。何にもならない模様だった。わたしは、何に対して羨ましいと思ったのか。

急かされるのが嫌いだ。
急がないで済むのなら、できるだけ急がずに生きていたいのに。
急いでいる気もする、何にもならない。

時計の針が7を指したら、また硬い靴を履かないといけない。畳のお部屋で私は携帯に一生懸命文字を打ち込んだ、何にもならず。
毛布を引いて寝転ぶ若い女性に、また羨ましいなあと思いながら重たい腰を上げた。