注射の時に歌う歌

地元の歯医者の歯科助手の腕にたくさんの線を見つけてしまったとき。高校3年生の私は、もう1個1個のなにかしらに動じないような頭になっていたように思う。線があるな、と思って終わった。それは、少なくともネガティブな意味を持つものに違いないのだけど、その女性の明るくハキハキとした話し方とその線が私の中で結びつかなかったから。

中学生の時、みさきくんに暴力をたまに振るわれることがあった。今だったらそんな人と絶対に関わりたくないなと思うのだけど、その頃はそういうコミュニケーションしかわからなかった。みさきくんに蹴られたところがしっかり痣になって、赤くて青かった。お風呂に浸かっている時にじっくり眺めた。押すと痛かったけどみさきくんのことが好きだったから、悲しいのと嬉しいのが一緒にあった。日に日に薄くなっていく痣を見て悲しくなった。押してもだんだん痛くなくなった、みさきくんが私の体から消えていくみたいで、悲しくてお風呂で泣いてしまった。中学生の頃から、私はどこかもうずっとおかしいのだ。みさきくんに、消えるのが悲しくて泣いたという話をしたら「きもちわる」とだけ返事をされて、また心がズキ、とした。これって恋とか愛とかとはまた別で、でももっと確実に、みさきくんのことを私の人格にしっかりと刻み込まれる工程だなと感じていた。なんで私の事殴ったの、なんでもう私に会ってくれないんだろう。1度好きになった人のことをもう2度と放してあげられない。

誰かのリストカットの跡も、私の人生に全然関係ないよ。勝手に切ったらいいし、勝手に死んでくれても構わないよ。私がちゃんと抱きしめてあげられるのって私のほんのちょっとの周囲だけだ。みさきくんのこともずっと抱きしめたかったし、歯科助手だって抱きしめられるような私でいたかったよ。でも、知らないよ、私の人生を通り過ぎていったり、違うところで降りたりするんでしょう。
私の「特別」に干渉できるようなものって全部痛々しい。今日行った展示会も、全てのバランスが奇跡的に取れていたような清潔さで、胸が苦しくて泣きそうになった。心が痛いし、同時に抱きしめられたみたいだった。
1番好きって言ってくれたけど、2番めと3番目は何だったの。あのときくれたプレゼントの理由は何、罪滅ぼしなの、気まぐれなの。一生私の歌を聴かせてあげないよ、そのくらい本気だったよ。ごめんなさいの文章は、郵送して欲しいよ。