春の呪い

自分の中で夏より嫌な季節は、春だ。
春には重くて苦い思い出がたくさんあるのにさ、春は麻薬みたいで、掴みどころがなくて、私の前からいつの間にか消えていってしまうのだ。
嫌な気持ちだけを残して。

何もしたくない。こんな狭くて汚い部屋から私を早く連れ出して。


2022.3.8

木星に行きたいの

宇宙に私が1人漂っていた。
目の前にある星屑たちを掴もうとしたけど、届くわけは無かった。
寂しい、と口に出して言ってみたけどその言葉はキラキラ光って私の元から離れて行った。ごめんなさい、私がもっと大きかったらよかったのにね。160cmとちょっとの全身は、間もなく太陽の近くを離れる。

例えば私がすごく大きな体で、入る服なんてなくて、少しだらしない体を全く隠しもせずに宇宙を泳ぐのだ。
星屑たちは私が水をかく度に散らばって、時には私の指先にまとわりつき、輝いたりした。
私の裸体を誰もいやらしい目で見ない、私はやっと安心して、宇宙をまた泳ぎ出した。


というのは全部嘘で、私は美容室の椅子に座っていた。「倒しますよ〜」と後ろから声をかけられ、ゆっくり上体が倒れていく。
お湯で髪を洗われる、くすぐったくて少し足を組んだ。

「子どもじゃ無いんだからいい加減こういうことやめれば?」と言われた日のことを思い出す。私はあれから多くを欲しがってしまった。
幼少期、欲しいものを欲しいと言えない子どもだった。すべて無くなって、欲しかったのに、別に欲しくなかったしと簡単に笑って見せた。

美容師に「こんなに面白い子いないのにね」「会うの二回目だけど、離れるのが寂しいです」と言われた。そのあとすぐ耳の中に水が入って、苦い気持ちになった。

私の全てを曝け出しても壊れないでいてくれるかな。私のせいで壊れてしまった人たちは、壊れた心をわたしのグラウンドに埋めていった。
その場所は未だに草木も花も生えない。春が来ない。宇宙空間を1人で漂っていたのは、地球を全部壊してしまったからだった。

♪さよなら〜 それもいいさ
♪さよなら〜 どこかで元気にやれよ

♪僕もどうにかやるさ

隣の星から聴こえてきた音楽は、春に相応しい別れの歌だった。あなたが居れば、私の大地にも草木が生えるだろうか。春みたいな人。

いつかもっと大きくなって、宇宙を壊してその外に行くのよ、私のそんなおふざけにも笑ってくれるような暖かい季節。

春なんてもう二度と来なければいい。

贈り物をください


人からいただくものは、何が好きですか。
私は、今は文章が一番欲しいです。
私のための言葉を、時間をかけて紡いで欲しいと思うのです。

お金と時間でしか愛は測れなかった。私のために、人生の時間を沢山使って欲しいと思うから。
離れたくない。でも、遠くに行きたい。
人生のわがままが何個叶ったとしても、私が満たされることは無いみたいに。

好きな人に電話をかけてみたら、繋がらなかった。こういうのが怖くて、電話がかけられない相手が何人もいる。

なんの才能も持っていないことに気づいた。
こんな駄文ですら、少しは素敵なものだと思っていたくせに。

悪意でもいいから、私に執着してくれたらいいと思う。私の一挙一動が気になって、私の言葉で可愛くなったり可愛くなくなったりしたらいいのに。

あわよくば、私の手となり足となってくれる人が現れたらいいのに。
妥協はしたくない。この人でいいやではなく、貴方でないとダメなのです、この感覚を。
私にはもう時間が無いのです。神様、私の結び目はどこにつけられたのですか。


色んな人に貰った言葉を貯めている。
集めたそれを、たまに眺める。
活字は私の輪郭をなんとなく作ってくれ、私は自身を再確認した。
己の眩しい部分もそれによりできた影も、人を使わないと視覚できないなんて。

早く贈り物を沢山ください。
私が私じゃなくなってしまう前に。

不幸の湯

不幸のお湯があるなら、それはきっとぬるま湯であろう。
冷たくて、少し暖かくて、上がろうとしても上がれないのだ。

サウナと冷水のように、ストレスと幸福を行き来すればきっと整うのになと思う。熱い環境に身を置く覚悟も、態を食らう体力もなくなった。ぬるい湯につかって、明日のことは考えずに目を閉じるというのは、甘えと言われてしまうだろうか。

自分の不幸せを嘆くのは気持ちいい。
不幸せに、不遇に全部甘えて、それは全部私のせいではなく、ぬくいのがわるいのだと。



私とした約束を他人と果たしてしまうのは、托卵みたいなものだなと思う。
私と誰かの卵は、違う人間の巣の中ですくすく育つ。子どもが生まれた時、巣立つ時、私のものとも知らずに幸せな涙を流すのかな、私は子どものことなんかなにも考えやしないのに。

誰とも不幸にならないで欲しい、誰とも幸せにならないでと思うのと同じ尺度である。

孤独に死んでいく

捲る

早くに亡くなった芸術家は、才能が致死量に達したのだなと思う時がある。
Eveのラストダンスという曲を、私は芸術家の曲だと解釈した。
あなたは言った消耗品さ、という歌詞は自分のつくりあげた作品が金儲けの道具として都合よく使われていることに対して皮肉ったもの。
遠くから見たらあなたは幸せそうね、は芸術家がまだ無名だった頃から、ずっと近くで見てきた誰かの一言。遠くに行ったという歌詞は、有名になった、手の届かない存在になった、との事なんだろうな、と思った。
多分全く違うと思うけど、私はそういう物語の歌なのかもと思った方が楽しいのでそうさせていただきます。

私も早く、きっと手が届かなくなりたい。
死ではない。死は誰かを完全にし、個人で誰かを補完してしまうので場合としてつまらないのだ。手が届かなくなってもなお、連絡を取りたい友人がいっぱいいる。


話は変わるが、人が一生懸命に私に話してくれることに対して、すごく貴重でありがたいと思うのだ。
自分の中に秘めていることを、拙いながらに私に共有してくれるというのは。
私に心を許してくれてありがとうと思う。

人間関係は鏡、というが、私の周りの友人が私の鏡であるなら私はとっても素敵な人間だと思える。私が私を好きでいられる理由が貴方たちなのだ、と。逆も然りでありたい。

悪いこともいっぱいあったけど、今が良ければ結果オーライと思える。優しさを抱きしめて、また1歩進むのみ。

都合のいい朝

本日は、なんとなく行った銭湯で体以上に心が温まる思いをした。いい休日であった。

地元の人しか来ないような温泉に行った。
お湯はポカポカで、私は目を閉じて体育座りの姿勢になり、ドクンドクンと体が感じる瞬間を待っていた。もうすぐです、とおもって。

私ともう1人お湯に浸かっていたおばさんは、おしゃべりすることも無ければ目を合わすこともなかった。お互い足を伸ばしたり曲げたり、段差に腰かけたり、肩まで浸かってみたり。時間にして20分ほどして、おばさんはあがっていったし、私は血管がドクンドクンという感覚に身を任せて目を閉じたままでいた。

これでももう十分だったのだが、脱衣所にいつのまにかたくさんのおばさんがいて、お喋りをしていた。
話の内容は、今日はもう浸かったのかとか、湿布を剥がして欲しいとかそのくらいだったのだが、私はとっても嬉しくなってしまった。
おばさんはみな私にも「こんばんはぁ」と声をかけてくれて、わたしも倣って「こんばんはぁ」とニコニコしながら返したのだった。

人生の行き着く先は、あそこだなあと帰りの車で考えた。
銭湯は大人200円、子どもは100円だった。
200円であんなに暖まれるなんて贅沢だ、この世の200円で最も価値が高いのは、あれなのかもしれないとさえ思う。
おばさん・コミュニティの洗礼を浴びるにはまだ早い歳だが。
きょうたくんは男湯で「今日は天気が良かったので湯の温度が熱くていい。曇りの日はぬるい」という情報を、おじさん・コミュニティの輪に入り仕入れたという。私たちはとってもラッキーだと思って嬉しくなった。


最近は4時なんかに寝るようになってしまって、4時が夜だか朝だかわからない。
寝るには微妙だが、他人について考えるには都合のいい時間である。
最近は、私の神様についてまた考えている。1度捨てたお人形を戻したとて、誰にも迷惑がかかることはないと高を括っているのだ。

人生において、この人が人生に登場してくれてありがたかったなと芯から思う人は、皆どれくらいいるのだろう。
もちろんみんな有難いのだが、特に考え方を変えてくれたり、自分にとって何かしらの影響力のある他者のことを考えるのでは。

寄り添ってくれる人に感謝を示しつつ、私に牙を剥いてくれる誰かもまた、有難いと思う。



私を罪と表現する時、私を罪に仕立て上げるのはいつだって私じゃない他人だと思う。
私を罪にしないで、私は何も悪いことをしていませんよと。私が悪いってことにすれば自分の気持ち悪さに向き合わなくて済むもんね。


与えている時、与えられているということにもっと多くの人が気づくべきなのだ。
施している時、同じくらいその瞬間に貰っている。私は、そこにいつも満たされている。
早く気づいて欲しいし、気づかない人に対してはあまり関わりたくないかもしれない。
真の意味での施しや善、施させていただくこと、私が二度とできないことなど。


また都合のいい朝が来る、今日こそ早く起きるのだ。

私を読まなくちゃ

頭が割れるように痛かった。何も出来ないならできないなりに、さっさと全部終わらせればよかったのにね。たまにどうしようもなく無理したくなる。

私のことを見抜いてくれる他人が好きだ。私の肉体や空気、建前を全部無かったことにして、直接魂に到着してくれるような人。私の中に遊びにおいでよ、痛くてもいいから

見抜かれている時、痛いのだけど心地よい。的外れではダメ。ダーツの的の真ん中以外は論外なのだった。

自分の温度に近いから、最短で私にも届くんだね。温度の違う人、合わせるために熱するのも冷ますのもすごい手間があるのだった。
最速で私のところに来て欲しい、心地良さをたくさん提供してください。


この土地に住むのもあと僅かかと思うと悲しくなる。でも、終わりがあるからこそ美しく楽しいことを私は知っている。この土地での生活はもうお終い。でもまた戻ってきたっていいというのは、頭ではわかっている。

みんな思った以上に私の事見ているし、私のことを見ていない。
そもそも私の表現の3割くらいは特定の人物のためにやっているのだ、いい加減私のことを読んだり見てくれたりしてもいいだろう。
でも、読まれない心地良さもあるのかも。
2月ももうすぐ半ばになる、私は何がやりたくて、何がやりたくないのだろう。
ひとにはいわない